大いなる幻影(ジャン・ルノワール、1937)

あんまり寝たい気分じゃないなと思って、ずっと借りっぱなしだったルノワールの『大いなる幻影』を見た。で、見終わって、今、10分経ったところ。いや、もう20分経った。
悲しいとか涙が出るとかそういうレベルではなくて、なんだろう。本当にどう表したらいいのか全然わからない。とりあえず映画が終わって、椅子から崩れ落ちて、どうすればいいのかどうすればいいのかと天井を見上げた。そのくらいどう言えば良いのかわからない。動作でこの行き場の無い気持ちを表すしか知らない。術が無い。それしか出来なくて、つらい。

ルノワールが描いた究極のリアリズムは、最早リアリズムなんかじゃない。それすら超越して、別のもの、例えば幻影とかファンタジーとかシュールレアリスムとか、になっている気がする。感情や別の知性を持ったリアリティ。それがおよそ2時間、正しくは114分間、私に向かってくる。

上手く言えない、全く上手く言えない!

どうしてこんな「言葉にならない」感情を抱いたのか?
多分それはルノワール特有の、二極の間で引っ張られ続けるからだと思う。例えば、コミカルなシーンから唐突に国家や戦争が介入してくる。劇中劇のシーンなんかは特にそうだ。フランスの捕虜が女装し、ドイツの軍人たちを笑わせる。それを見て私も同じように笑う。その次の瞬間、デュオモン陥落のニュースにより「勝利」や「敵対」の雰囲気に一変する。私は笑ったまま、その変わった雰囲気に付いていけずに混乱する。そして思い出す。そうだ、これは戦争中の物語なのだ、と。敵同士が仲良くワイワイガヤガヤしているのなんて幻想なのだ、と。
そしてこの映画はそういった混乱や感情の引き戻しの繰り返しなのだ。仕舞いには何もかもが怖くなる。逃げ切ったあのふたりの捕虜を確かにこの目で見ても。

この混乱がこの行き場の分からない感情を抱いた理由のような気がする。
こんなに激しい映画、久しぶりに見た。もう今まで何を見て来たか忘れるくらい。

本当に、本当に。
何と言ったら良いのか。
こんな作品、こんな映画が生まれてしまうなんて、というか、あっていいのか、というか、でもそれと同時に、やっぱりどうしても美しいと言わずにはいられない。


大いなる幻影 [DVD]

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混乱の中の文章。