秋刀魚の味
彼岸花と秋刀魚の味、どちらも小津安二郎の同テーマに基づく作品だが、このふたつのうちどちらのほうが評価が高いのだろう、と考える。
個人的には秋刀魚の味の方が好きだ。
わかりやすくもあるし、何よりカット毎ドキッとさせられるようなシーンが多い。
(しかし小津映画とは基本的にそういうものである)
杉村春子が出るシーンはひとつしかない。
酔っぱらって帰って来た父親を見て、隣で嗚咽を殺し目頭を押さえる彼女を見た時、心臓を抉られるような不安定な気分になった。
杉村春子演じる伴子は、将来の平山路子(岩下志麻)なのである。
そして伴子の父親(東野英治郎)は、路子の父親である周平(笠智衆)の未来の姿だ。
その事に危惧し、娘を嫁に出した父親の最後の姿のなんと寂しい事か。
どことなく死の臭いも感じた。
かつての部下だった坂本(加東大介)と行ったバーで聞いた軍艦マーチを口ずさみ、カメラは路子が居なくなってがらんどうな家を映す。
試合に勝って勝負に負けたようなものだ。
「負けました」「負けました」と言い合っていたバーの客を思い出す。
周平は結局、ふたつの戦争に負けた。
日本軍として、そして父親として。
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小津映画に漂う戦後や敗戦の雰囲気は、色濃く映画に投影されている。
だから私は彼の映画を見た時、心細く、どうも不安な気分になるのだ。
あっけらかんと、「艦長、どうして日本は負けたんですかねえ」「勝ったら艦長、今頃はあんたもあたしもニューヨークだよ」なんていうセリフにはユーモアを感じつつじんわり悲壮感も味わえる。そんなものを作り上げるのはやはり小津安二郎しかいないのかも知れない。
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