細雪

とにかく美しく、綺麗。船場言葉と呼ばれる上流大阪弁、そして四人の名女優たち。幕間もわかりやすく全体的な構成も明快。回想シーンはモノクロから始まりカラーに変わるので、通してみていて迷うことはない。ロケーションも素晴らしく、印象に残るカットが多い。たとえば、一番はじめの花見の席に遅れてやってきた長女が羽織りを脱いだときに現れる蒔岡家の家紋。そして秋の三女の見合い時にも、次女がそのシーンをリフレインする。オープニングとラストの桜のシーンもとにかく美しい。そしてそこをゆっくり歩く美人姉妹が着る着物のなんと艶やかなことか。

舞台は大戦直前、昭和13年だろうか。早くに母を亡くし本家にこだわり続ける長女・鶴子(岸恵子)、三女と末っ子の面倒を見る次女・幸子(佐久間良子)、おっとりしているようで頑固な嫁入り前の三女・雪子(吉永小百合)、実利主義に生きようとする末っ子・妙子(古手川祐子)。そして三女に密かな想いを抱く幸子の旦那(石坂浩二)と、養子という微妙な立場でありながらも狡賢い鶴子の旦那(伊丹十三)。
メインプロットは三女の縁談だが、長女夫婦の上京話と三女の色恋沙汰、そしてそれらに巻き込まれる狂言回し的ポジションの次女とその旦那の姿が描かれる。全て同時に進行していくのだが、どの話もとても丁寧に作り込まれている印象を持った。とにかく登場人物がどういった性格の持ち主なのか、非常に掴みやすい。
最終的には、どの話も良い方向へ行くような雰囲気にまとまる。上京を拒んでいた長女は決心し、何度も縁談を断り続けた三女も嫁ぎ、末っ子も貧乏ながら幸福に過ごせる道を見つける。しかし、少なくとも三年後には参戦し、長女が上京した七年後には東京大空襲が起きている。鶴子は「みんな、ええようにいったらええなあ」と言う。そのようになるのだと、そのときの彼女たちはもちろん思っているのだろうが、あの家は焼けてしまうだろう。そう考えると非常にゾッとする。しかしその事実があるからこそ、あの映像はさらに美しく見えるのだ。そして美の崩壊をあそこまで丁寧に撮った市川崑監督に、感服せざるを得ないと感じた。


細雪 [DVD]

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