東京暮色

いつもの明朗さはどこへやら。しかし人工中絶後帰宅し、子供のカットを見せるところは冷酷で、小津らしいと思った。
この作品ばかりは、周吉(笠智衆)の孤独より、明子(有馬稲子)の不幸さに目がいってしまう。そのくらい不幸なのだ。一度も笑顔を見せず、精神的にギリギリの淵で立ち止まっているような有馬稲子が印象に残った。

明子の死によって長女・孝子(原節子)は「なんとかやっていく、やらなければならない」と家へ戻ることを決心し、母・重子(山田五十鈴)は現在の旦那と一路北へと向かう。そして周吉は選ぶ道はなく、ただ孤独へ。しかし他の作品と孤独への道順が違う。この『東京暮色』は、成らざるを得なかった孤独だ。

なにより、この作品は孤独と言うことが重要なのではなく、三人の女性の物語だろう。
小津流の女性の映画。
全編を通して暗い雰囲気は漂うが、わたしは嫌いではない。


東京暮色 [DVD]

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