東京家族

旅行中のフライトで見た(ちなみに行ったのはペルー)。
感想を素直に。

はっきり言って、私は駄目だった。駄目だと言うのは受け入れられないと言う意味で。2時間半という長い尺の中、見られない映画と言うのなら話は早い。見なきゃ良い。この場合、見られる分つらかった。早く終わらないかな、とも思ってしまった。

東京家族」と言うタイトルの書体もそのまま、尾道の町のカット、電車のカットと、電信柱のカットなど、『東京物語』をそのままもってきたんだなというシーンが続く。電車は汽車から新幹線へと、現代化。2012年の東京物語というわけだ。ストーリーもほぼ同じで、唯一の大きな相違と言えばオリジナルでは戦死していた平山家次男・周二の存在。と言うか平山家の家族形態も現代化がなされていて、三男二女だったのが二男一女になっている。そのため、とみが亡くなった時に三男の口から出る「孝行したい時分に親はなし、さりとて墓に布団は着せられん」という台詞は滋子の旦那から発せられる。
昌次がキッチリ存在している割に、紀子もキッチリ存在している。存在はしているけれどあまり理由は見つけられなかった。ラストの「私、そんなに良い人間じゃないんです」というのも、ただ単に「恋人の両親の葬儀を手放しでお手伝いするような善良な人間じゃない」という行動の否定にしかなっていないので、台詞の必要性が感じられない。はっきり言って紀子いらなかったんじゃなかろうか。
そう、ストーリーの中心はあくまで昌次なのだ。『東京物語』で死んでいた昌次が『東京家族』では生きている。だからなおさら紀子の存在が不必要に思えた。

と言うか、全体的に不必要・不可解なエピソードばかりだった。
東京物語』が作られた50年代の移動はさぞ大変なものだったのであろう。広島から東京へは、それこそ海外へ行くのと同じくらい大変だったのかもしれない。どのくらい時間がかかったのかはわからないが、きっと固いシートに何時間も座り、汽車の振動具合も酷かったんだろう。だが現代は違う。パっと新幹線で行けるし、シートももう固くない。そこまで移動で疲労困憊になるとはどうしても思えないのだ。『東京物語』ではとみがいきなり倒れ亡くなったことに違和感を覚えなくても、『東京家族』でとみこがいきなり倒れ亡くなったことに対して違和感を覚えてしまった。あまりに急すぎる。なんでだろう、『東京家族』のとみこは死ななさそうに見えたからか。
それから昌次と紀子が出会ったと言うエピソードについて。震災後の南相馬市でのボランティアに参加した時に出会い、プロポーズ前提のお付き合いをはじめたと言うことを昌次は彼のアパートで母とみこに伝える。良い瞬間だ。母と息子の幸せな時間だろう。ただ私はどうしてもこの「ボランティアの際に出会って」という話が気に入らず、ムカっとしてしまった。ボランティアに行った昌次はそこで紀子と出会う。そして幸せなカップルになる。南相馬市をほっぽって。ボランティアに行き、女を見つけ、結局東京へ戻り自分の生活(彼女はちゃっかり出来ておいて)を続けると言うエピソードに軽率さを覚えた。じゃあどこで会っても良いんじゃないか?と。どうしてあえて南相馬まで行って出会う必要が会ったんだろう。
もうひとつ、震災を絡んだエピソードがあったのだが、それもあまりにとってつけたようで良い感じはしなかった。

もうほんとうに、紀子の存在がとにかく不必要としか思えなかった、です。

山田洋次は一体何がしたかったんだろう、とずっと鑑賞中考えていた。
鰻屋での昌次と周吉のシーンがあった。昼間から鰻屋でビールと言うのも小津らしいが、その正面を低い視点から捉え、周吉と画面の右にあるビール瓶、昌次と画面の左にあるビール瓶を見たとき、もしかしてこれがやりたかっただけなんじゃないか、と。小津っぽい、でも小津じゃありえないカットで凄く気持ち悪かった。妙にあおり画になっているし、昌次のカットでは脇にとみこが見切れている。多分、小津じゃありえない。絶対にありえない…と思いながら見ていた。

見ながら途方もなく悲しくなってしまった。家族の離散を家族が集合することによって描いた『東京物語』、じゃあ『東京家族』は?
若者に希望を感じるのか、老人の行方に不安を覚えるのか。

山田洋次演出の舞台『東京物語』のほうがよっぽど良かったです。
どうしてこんなになっちゃったんだろう。不思議でしょうがない。
最早リメイクと言うかオマージュと言うか、オリジナル版とは切っても切れない出来になっているので、やはり比較を抜きに語ることは出来ない。そして比較をしてしまえば、明らかに『東京家族』が見劣りする。きっと『東京物語』を見なければ良いのかもしれない。

というかそもそも、2013年に1953年の映画のストーリーをほとんどそっくりそのままもってきたことに違和感があるんですよね。似通ったストーリーで別の問題は提起できない。

悲しくなりました。でもペルー旅行はとても楽しかったです。


東京家族 DVD

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