陋巷に在り

やっと読み切った。気付けば2カ月ほどかかってしまった。
いや、しかし、全13巻、思ったより長かったぞ。
孔子についてもほぼ知らず、魯の歴史もわからず、ましてや中国神話やオカルティックな話に興味は無かったのだが、ここまで読めたのはやはり酒見氏の文体の読みやすさがあったからだと思う。物語の間に挟まる彼の細かな解説が、より想像力を逞しくさせてくれる。膨大な量の情報。濃密だから飽きない。

やはり一番の山場は医げいの登場からだ。そこからさらにシャーマニズム的要素も増え、よりファンタジー寄りにはなっていく気はする。しかし彼が作中で散々説明したように、当時の儒(決して今現在確立された儒学とは違うもの)がいかに重要視されていたかという事を考えると、何故だかとてもリアリティーを持ち始める。冥界に降りた顔回祝融という中国神話上の女神の手助けを得るところからが好きだった。

上記に述べた祝融だけでなく、この作品には、非常に魅力的なキャラクターが多く出る。13巻ともなれば登場人物も必然的に増えるのだが、その中でも、女性のキャラクターが素晴らしいのだ。顔回と同じように陋巷に住む少女の〓、媚蠱に蝕まれて以来内に秘めた能力が開花される。作中屈指の力を持つ媚女である子蓉。炎の化身で母性愛を持つ中国神話上に存在する祝融孔子の母で、天才的な巫儒であり、尼丘の命に従って生きた顔徴在。彼女たちの共通点はひとつだけある。兎にも角にも力強い(そして気が強い)。時として男性以上の力を発揮したり。読破出来たのも彼女たちがいたからだと感じる。
とにかく、子蓉の艶っぽい描写なんかも素晴らしい。彼女の野性的で挑発的な言動に思わず劣情を抱いてしまった。

広げた風呂敷をスッといきなりたたまれるような、あまりにもアッサリした終わりに少し驚いたが、あとがきに酒見氏は顔回が死亡するまで書きたいと記してあったので、この終わり方でも仕方ないとは思う。ただあとがきも相当前に書いたものだろうし、今はどうかはわからない。とても残念だが、出魯後の彼らを読める事はおそらく無いだろう。

中国の魑魅魍魎、オカルトなんかに興味が有ったら是非手に取ってほしいひとつである。もちろんわたしのようになにひとつ興味がなくても読んでもらいたいものだが・・・。
そしてやはりいつかは論語史記を読んでみたいものだ。


陋巷に在り〈13〉魯の巻 (新潮文庫)

陋巷に在り〈13〉魯の巻 (新潮文庫)